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しぐれ茶屋おりくの部屋

しぐれ茶屋おりくの部屋

大坂の陣 その2♪

<創作落語「大坂の陣」その2

 街にぁ色とりどりのネオンの花が咲き、宵闇迫った頃合の時間です。皆さんも昔を思い出して頂ければ、あの独身時代の逢引・・・・いや~済みません。今じゃ何と言うンですか、お茶するちゅーンですかね。

男と女が時間を待ち合わせて、楽しいひと時を持つ訳で御座います。 仕事を早めに切り上げたままの背広姿で、有名なビルの一角で彼女を待って居ります。其処へスカート翻し、ヒールの音も軽やかに彼女がやって来るンですな。

まあ、こんな場合、女性は美人にしておかないと噺は盛り上がりません。へちゃむくれのぶさーいくな女でしたら、お客さんも耳をそば立てて聞く気にもなりませんから、この場合、超美人にしておかなくちゃならないンで御座います。

(G女)「待った~?」
(Y男)「いや、今来た処だよ」
 近頃は何だかんだ云っても女性上位時代です。この男、小一時間も待っていた癖に見栄を張っているンで御座います。

(Y男)「今日は何にしようか?」
(G女)「私は何でも・・・貴方と同じものでいいわ」
 あのねぇ、こんなん言ってくれるのは最初の内だけですよ。世帯持って共働きしてご覧なさい。炊事、洗濯、掃除、買い物、諸々の家事は折半になりますよ。

嫁はんが料理の番で、その辺のスーパーで買って来た出来合いものを出しよるンで、文句の一つでも言おうもンなら、「あ~ら、何か不服なの?人が忙しい中、折角買って来たのに、文句を言うの?」てな具合で、そこからチャンチャンバラバラの大喧嘩が始まるンで御座います。

 で、二人仲良く、ちょっと高級なレストラン、まあフランス料理でしょうか、優雅に夕食を楽しむンですな。また、話が横道に逸れてしまいますが、男っちゅう奴も何で御座いますね?

一旦釣り上げた魚には餌を与えないって言うンですか、こんな高級なフランス料理なンてーものは世帯を持った途端、二度と連れて行かないものなンですね。会社のOLには鼻の下伸ばして奢ってやる癖に、嫁さんには勿体無いちゅうンですか、金をかけたがりませんなぁ。

 きっと将来を嘱望された若手デザイン家の考えた処なンでしょう。そりゃームードのある、美しい、ビューティフルな場所なンですよ。天井には間接照明のコバルトブルーが綺麗な光を放っているし、

ボトルの収納棚は真っ黒な上等な奴で、高級なボトルがずらり並んでいます。カウンターは真っ白で椅子も薔薇色のビロードか何かで、店内高級感に充ち溢れている処なンで御座います。

(Y男)「今度いつ逢えるかな?」
 今逢ったばかりなのにこの男は、この女他人に取られては大変とばかり、次のデートの都合を聞きます。
(G女)「明後日の日曜、空いているわ」
(Y男)「よし! 僕のジャガーで湘南海岸へ行こう」

 私なんざー、車を持つには持っているンですが、ジャガーなンて高級車じゃありません。辛うじて動くという国産車なンですが、この男、ジャガーを武器にしているようです。

不思議ですな。女ってぇのは高級車に弱いンですな。いっぱしの女にもなってないそこいらのギャルでも偉そうに、ジャガージャガーなンて申して居ります。・・・じゃが~芋みたいな顔して・・・・。

(G女)「うわ~ ス テ キ !一度ジャガーに乗って見たかったの」
 もう女はうっとりしています。場所が湘南海岸と聞いただけでも、ドラマのヒロインになったかのように悦に入って居ります。

(Y男)「晩は中華街に寄って、レインボーブリッジから夜の海を眺めようか」
 男はぐいぐい自分のペースに女を引き込みます。私なンざーこんな気の効いたこと言えませんでしたンで、今の嫁はんがええとこなンですよ。高倉健みたいに女の痺れるような台詞がポンポンと湧いて来てゐりゃーまともな美人の嫁はんをゲットできたンでしょうが、・・・もう後の祭り・・・・。

(Y男)「昼は映画でいいかい?」
(G女)「嬉しいわ、貴方とロマンチックな映画が観れるなンて・・・。」
(Y男)「今さ、タイタニックが凄い人気らしいじゃないか、あれを観ようか」
(G女)「ええ、私も一度観たかったの」

 こんな調子の会話だけでしたら、もう落語じゃ御座いません。そろそろ落語へと進みまして皆さんを退屈させないように致します。初めに申しましたように、この盛り上がった処へ、前世の記憶が二人とも急に甦るンで御座います。

(G女)「ちょうどあの時、私は幼い皇子(みこ)を抱いていたわ」
(Y男)「えっ、今何て言ったの?」
(G女)「だから私は群がる源氏から逃れるように、皇子を抱いて舟に乗ったのよ」
(Y男)「皇子って誰のこと?」
(G女)「私一度死んでしまったから、皇子の名前は忘れたわ。・・・あぁ、思い出した。安徳天皇よ、そうよ源氏への恨みは忘れはしない。あんなに平和な平家の世だったのに・・・。」

Y男)「源氏やら平家って、一体何の話なンだ」
(G女)「あらっ!貴方は義経! 我ら平家の者を海へ沈めた憎い仇!」
(Y男)「ちょっと待ってよ!今、平成の時代だよ。平家源氏は鎌倉時代の話だよ・・・。」
(G女)「そんなの関係無いわ。貴方は私達の仇、九郎判官義経公ね。皆になり代わって貴方に一矢報いてやる!マスター、其処のナイフ貸して頂戴!」

(マスター)「お嬢さん、此処はBAR、ダン・ノーラですよ。壇ノ浦ではありませんよ」
(G女)「じゃかましい!取って呉れないンなら、カウンターに上がるまでよ」
(マスター)「えらいことになってしまった。お客さん、早くこのけったいな人連れ出して下さい」
(Y男)「そう言うお前は熊谷直実。余が命令じゃ。この女を連れ出し、幼き皇子の所在を確かめて参れ!」

(マスター)「貴方まで何をおっしゃるンですか、困ったなぁ、どうしよう」
(G女)「まことそなたは熊谷ぞ。我らが勇士惟盛殿を討ち取った男ぞな。もう許しゃせぬ。わが身はどうなろうと、二人とも生かして置かぬぞえ~!」
(マスター)「一体、何が何やら、さっぱり訳が解らん。−−−まぁ、強いて言えば、近藤勇君は知っていりけどなぁ」

(Y男)「誰じゃい、近藤勇って」
(G女)「誰なのよぅ、近藤って」
(マスター)「へぇ~、あんたら知りませんか、あの有名な近藤勇を。我々勤皇志士を目の仇にした奴ですがな」
(Y男、G女)「そんなン、知らん」
(マスター)「そらそうですな。あんたらは源平合戦時代のこと言うてなさるし、こっちはもっと時代が下がって江戸幕府崩壊の頃ですからな」

 ワーワ、ワーワ言うている中へ、別の客が入ってきました。不思議と言うかひょんなことと言うか、今までの会話が急に終わってしまいました。


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